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相手信じる力も能力
通信会社のYさん(27)が、営業から大型展示映像を事業化する新設部署に異動したのは半年前。そこで最も刺激的な存在だったのは、後で転職してきた上司だった。
その上司は、野外イベントなどで上映される映像制作で経験のある40代のプロデューサー。ここ6年は、WEB関連企業にいて、映像業界からは離れていたが、部署新設を機に、スカウトされたと聞いた。
Yさんがまず驚いたのは、その人脈だ。
「どうもごぶさたで。またこちらの世界に戻って来ましたので、よろしく」
上司が入社後すぐ、そんな電話をあちこちかけると、日を置かず次から次といろんな人たちが気軽にオフィスを訪ねてきた。
「また一緒に何かできますね」。リップサービスとも思えない親しげな間柄に、仕事抜きでも付き合ってきたのかと思いきや、「話すのは7年ぶりくらいかなあ」。
ブランクを感じさせない、そんな人間関係がどうして可能なのかを尋ねた。すると「一度でも一緒に仕事をしたら、こんなもんだと思うけど」。そうアッサリ言われても納得できなかったので、さらに突っ込んで聞くと、今度は「約束を守る、うそをつかない……かな」と、答えた。
なんだか子供相手に言われたような内容に、釈然としない顔でいると、上司はあわてて次のようにフォローしてくれた。
人が日常で一番数多く交わす約束事は、時間に絡むことだと言うのだ。信頼を得るには、待ち合わせ時間のような小さな約束を、守り続けることから始まるのだと。
確かに一緒に仕事をして気付いたのは、その上司がどんな会議にも、遅れないことだった。妙に感心していると、「信頼を得ることも重要だけど、相手を信頼する力も大事な能力なんだよ」とも言われた。
目からウロコだった。「相手を疑ってかかれ」が口癖だった元上司とは正反対だ。
自分が転職しなくても、転職者と仕事をすることで、今までとはまったく違った価値観に触れられることもあるのだ。
(朝日新聞 2月17日)